【開催報告】環境相談ミニ講座「行動をそっとあと押し、『ナッジ』ってなあに?」

 12月13日(日)、北海道行動デザインチームの宇山生朗さんを講師に、環境相談ミニ講座「行動をそっとあと押し、ナッジってなあに?」を開催し、15名の参加がありました。
オンライン講座の良さとして、名寄や帯広など、遠くからの参加もありました。ただ、講師の音声が何度も途切れるというトラブルがあり、オンライン講座の難しさも実感したところです。ご不便をおかけした皆様にお詫びするとともに、最後まで受講していただいたことに感謝申し上げます。以下、お話の内容を簡単にご報告します。

○ナッジとは?
 「ナッジ」とは、直訳すると「肘でそっと突く」という意味で、「規制を設けることなしに、規制と同様の成果を得る方策」で、「同じ目的を達成するように設計された規制以外の新たな手法」だそうです。ナッジ理論の提唱者のリチャード・セイラー博士が、2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。

○北海道行動デザインチーム(HoBiT)とは
 HoBiTは、今年、令和2年3月に、北海道職員の有志によって、「行動デザイン(ナッジ等)の考え方を、道や道内市町村等に広め、費用対効果の高い取組を展開することで道民に貢献する」ことを使命に設立されたそうです。

○情報発信者が考える受け手像と実際の受け手のギャップ
 「本当に伝えたい人には全然情報が届かない」「いくら呼びかけても、行動につながらない」ということを感じている方は多いのではないでしょうか?
 実は、情報発信する方は、「メリット・デメリットを説明すれば、人は合理的に行動してくれるはず」と思っているのですが、現実には、そんな完璧な人はいない、「隅から隅まで見る完璧な注意力」を持ち、「リスクが分かる完璧な理解力」と「将来を見据えた完璧な判断力」も持ち、「必ず行動に移す」という完璧な人間はいないと、宇山さんは説明されました。

○人の行動には癖がある
 分かっていても行動を変えられない理由として、「人の行動の癖」が具体的に説明されました。
・損失回避   人は喜びより損失を2〜3倍強く感じるので、損失を避けようとしがち
・確実性効果  客観的確率が高いものを、過小評価(低めに感じる)、客観的確率が低いものを、過大評価(高めに感じる)しがち
 他にも、選択肢が多いと選択をやめてしまう傾向や、現状維持を選びがちである傾向、所属するグループの慣習や価値観に影響される傾向があることなどが紹介されました。ナッジは、これらを体系化して応用したものだそうです。

○人の意思決定の95%は、直感的思考
 先に話された合理的な思考・行動は、論理的思考による意思決定です。自治体等による今までのいろいろな働きかけは、この論理的思考に対するものでした。しかし、実際の人の意思決定の95%は、直感的思考だそうです。そして、ナッジは、その直感的思考に働きかけようというものなのだそうです。
 実際に、ナッジの視点を活用した例として、健康支援プログラムの案内封筒の例が紹介されました。どんな案内でも、まず、封筒を開いてもらわないと効果にはつながりません。封筒には、「中の招待券を使わないと、専門家によるプログラムが無料で受けられない」「有効期限は2ヶ月」(損失回避)と書かれているほか、案内の内容がシンプルに表示され、「全国で10万人が利用」(社会規範)、「今なら無料」(経済的インセンティブ)と書かれていました。その結果、従来20%だった開封率が、約76%にアップしたのだそうです。ほかにも、ナッジを活用したいろいろな例が紹介されました。

○留意事項も!
 ナッジが注目を浴びているのは、費用対効果が高い点にもあるそうです。けれども、ナッジを使う際には、注意も必要だと、宇山さんは話されました。ナッジが心理的な誘導を伴うため、「健全性や選択の自由を守るなどの透明性を確保することが重要」だということです。宇山さんの所属する「北海道行動デザインチーム」では、大学の先生にも関わってもらい、健全性や選択の自由を守りながら、ナッジを使ったいろいろな実証実験を、進めているそうです。

○一緒に考えていけると・・・
 参加者からは、「ナッジがとても有効なのはわかりました。事例も面白かったです。私たちが抱える具体的な悩みを聞いてくれて、アドバイス(一緒に考えてくれる)してくれる窓口はありますか?」という質問がありました。HoBiTでは、ホームページなどの開設を検討中とのこと。
 「初心者におすすめの資料を紹介してほしい」という声もありました。これについても、ご紹介いただいたので、報告の後に記載しています。
 また、「遊べる余白のあるナッジだと楽しんで行動変容できるのかも」という参加者の声には、宇山さんからは「そうですね。楽しいナッジを考えられると良いですね。」という回答がありました。参加者アンケートでは、「とても参考になる」「もっと知りたくなった」という声が聞かれました。
 終了後、講師を交えたふりかえりでは、機会があれば、今度は、具体的な取組を考えるワークショップができたら、という意見も出ていました。実現したら、また、ご案内いたしますね。


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○紹介いただいた参考になる資料や書籍
 ・政策現場のための行動経済学入門 [前編:意思決定のバイアス]
  自治体のナッジ・ユニットを支援している東北学院大学の佐々木周作先生のナッジ解説動画。
   https://www.youtube.com/watch?v=sYtbqwUH-iE
 ・厚生労働省受診率向上施策ハンドブック
  ナッジの解説と、いろいろな自治体の取り組み事例が掲載されています。
   https://bit.ly/2K328bp
 ・シカケコンテスト2020
  仕掛学を提唱されている大阪大学の松村真宏(まつむら・なおひろ)先生が主催するシカケラボが行っている小学生を対象としたコンテストのサイト。
  小学生の受賞作品や、「シカケに関するキッカケいちらん」が掲載されています。
   https://bit.ly/3qUYukg
 ・環境省 日本版ナッジ・ユニット(BEST)について
  「ナッジについて」や、現在の取り組みが紹介されています。
   http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge.html

以下は、書籍。
 「知識ゼロでも今すぐ使える!行動経済学見るだけノート」(電子書籍) 著者:真壁昭夫
 「実践 行動経済学(日本語)」 リチャード・セイラー(著)、キャス・サスティーン(著)ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラー博士の代表作(2009/7/9)

主催:札幌市環境プラザ【指定管理者:(公財)さっぽろ青少年女性活動協会】
企画・運営:NPO法人環境活動コンソーシアムえこらぼ